ほっと一息つきたい時に読む面白い小話

バレンタインが近づくと、街はチョコレートと甘い香りでいっぱいになります。
けれど、想いを込めた手作りチョコは、必ずしも思い通りに仕上がるとは限りません。
今回ご紹介するのは、愛称「ななまる」が挑戦した、ちょっとドジで心温まるバレンタインの小話。
とろとろに溶けたチョコと一緒に巻き起こる小さなハプニングが、思いがけない幸せを運んできます。
ほっと一息つきたい時に、ぜひお楽しみください。

第11話:「バレンタインに奮闘する『ななまる』」

2月の街は、バレンタイン一色。
ショーウィンドウにはハート型のチョコレートが並び、カフェでは期間限定のチョコレートスイーツが人気を集めていた。

愛称「ななまる」も、その空気にすっかり影響されていた。
「今年こそは、ちゃんとバレンタインチョコを渡したい…!」

毎年、買うだけで満足して結局渡しそびれてきたななまるだが、今年は違う。
手作りチョコレートに挑戦して、想いを形にしようと決意していたのだ。

キッチンに立ち、レシピサイトで「簡単 バレンタイン チョコレート」と検索しながら、
「初心者でも失敗しないって書いてあるし…たぶん大丈夫だよね?」と小さくつぶやく。

ななまるは、板チョコと生クリーム、そして可愛いハート型のシリコンモールドをテーブルに並べた。
「これなら、溶かして流し込むだけだし、失敗しないはず!」

湯せんでチョコレートを溶かし、ゆっくりと混ぜていく。
部屋中に広がる甘い香りに、少しずつ緊張がほぐれてきた。

ところが、ここで思わぬ問題が発生する。
「え…なんでこんなにドロドロ?」

どうやら生クリームを入れすぎたらしく、チョコはスープのような状態に。
「ちょっとくらいなら…固まるよね?」と自分に言い聞かせながら、ななまるはそのまま型に流し込んでしまった。

――この判断が、バレンタイン当日にちょっとした事件を引き起こすことになるとも知らずに。

バレンタイン当日。
ななまるは、冷蔵庫から昨夜作ったチョコレートを取り出して、箱に詰めようとした。

……ところが。

「え? ちょっと待って、なんでこんなに柔らかいの?」

型から外した瞬間、チョコはぷるんと揺れ、まるでチョコレートプリンのよう。
「固まってない…!」

焦ったななまるは、慌てて冷凍庫に入れてみるが、今度は表面だけ固まり、中はとろとろ。
箱に入れようと持ち上げた瞬間、チョコがくにゃっと曲がり、ハート型が見事に崩れてしまった。

「うそでしょ…これじゃ、バレンタインチョコというより…デザート事故…」

それでも、捨てるわけにはいかない。
ななまるは急きょスプーンと小さなカップを用意し、“チョコレートムース風デザート”として詰め直すことにした。

「…うん、これはこれでアリってことにしよう!」

その夜、ななまるは勇気を出して、そのデザートを相手に渡した。
「えっと…チョコを作ったんだけど…ちょっと形が違ってて…」

相手は一口すくって食べると、目を丸くした。
「え、これめちゃくちゃおいしいんだけど?」

ななまるは思わず拍子抜け。
「え? ほんと?」

「市販のチョコより、なんか手作り感あっていいね。むしろこっちのほうが好きかも」

その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
完璧な形のバレンタインチョコじゃなくても、気持ちはちゃんと伝わる。

帰り道、少し冷たい夜風に当たりながら、ななまるは小さく微笑んだ。
「来年は、もう少しだけレシピ通りに作ろうかな…でも、今年のも悪くなかったよね」

――こうして、ちょっとドジで甘いバレンタインは、ななまるの大切な思い出になったのだった。

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